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函館地方裁判所 平成8年(ワ)180号 判決

原告 大成ロテック株式会社

右代表者代表取締役 中村雄二

右訴訟代理人弁護士 橋本昭夫

同 大川哲也

同 朝倉靖

被告 株式会社 高橋工務店

右代表者清算人 高橋唯孝

〈他1名〉

右両名訴訟代理人弁護士 藤原秀樹

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一三〇〇万円及びこれに対する平成八年八月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、北海道が、訴外株式会社島田組(以下「島田組」という。)及び被告らの三社を構成員とし、島田組を代表者とする建設共同企業体(ジョイント・ベンチャー)である「島田・高橋・小野経常建設共同企業体」(以下「本件共同企業体」という。)に対して発注した「地方公務員共済組合職員住宅新築工事、函館A地区」(以下「本件工事」という。)について、原告が、その一部である外溝工事を、請負代金を一三三九万円と約定して下請契約を締結し(以下「本件下請契約」という。)、施工したこと(以下「本件下請工事」という。)に関し、原告は、本件共同企業体の代表者である島田組から本件下請工事の発注を受けて本件下請契約を締結したものであり、その注文主は本件共同企業体であるとして、本件共同企業体を構成する被告らに対し、民法上の組合である本件共同企業体の債務については、商法五一一条一項により被告らが連帯債務を負うと主張して、下請残代金一三〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成八年八月二二日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

二  前提となる事実(括弧内に証拠を記載した部分以外は争いがない。)

1  原告、被告ら及び島田組は、いずれも、土木、建築の請負等を目的とする株式会社である(《証拠省略》)。

2  島田組及び被告らの三社(以下、単に「三社」ということがある。)は、平成六年の年度当初に、概ね次の定めのある「経常建設共同企業体協定書(甲)」(《証拠省略》)を作成し(以下「本件協定」という。)、三社を構成員とする本件共同企業体を結成した(本件共同企業体が、実体のないペーパー・ジョイントに過ぎないのかについて、後記のとおり争いがある。)。

第一条 当企業体は、北海道発注に係る建設工事を共同連帯して施工することを目的とする。

第三条 当企業体は、事務所を島田組に置く。

第六条 当企業体は、島田組を代表者とする。

第七条 当企業体の代表者は、工事の施工に関し、当企業体を代表し、監督官庁等と折衝する権限並びに運営委員会の決定に従い自己の名義をもって請負契約に基づく行為を行う権限及び企業体に属する財産を管理する権限を有するものとする。

第八条一項 構成員は、金銭その他の資産をもって出資するものとし、その割合及びこれに基づく損益配分等についてはその工事の契約の際、構成員全員の協議に基づき別添付属協定書により定める。

第九条 当企業体は、構成員全員をもって、代表者を委員長とする運営委員会を設置し、工事の完成に当たるものとする。

第一〇条 各構成員は、工事の請負契約の履行に関し、連帯して責任を負うものとする。

第一一条 当企業体の取引金融機関は、富士銀行函館支店とし、代表者の名義により設けられた別口貯金口座によって取引するものとする。

第一三条二項 構成員のうち工事途中において前項の規定(発注者及び構成員全員の承認による脱退)により脱退した者がある場合においては、残存構成員が共同連帯して工事を完成する。

第一五条 当企業体解散後、当企業体の施工した工事につき瑕疵が発見されたときは、構成員は共同連帯して担保の責に任ずるものとする。

3  島田組は、本件共同企業体を代表して、北海道の発注する工事に関し、平成六年九月六日に、「函館市道営住宅工事」、同年一〇月一四日に、「上磯町道住新築工事」、平成七年三月一〇日に、本件工事に対して、それぞれ入札し、そのうち、本件工事を落札したために、北海道は、本件共同企業体に対して、本件工事を発注した。

4  三社は、本件協定の第八条一項の規定に基づいて、「経常建設共同企業体付属協定書(甲)」(《証拠省略》)を作成し(以下「本件付属協定」という。)、①本件工事を本件共同企業体が施工するために本件付属協定を定めること(前文、第一条)、②構成員の出資の割合を、島田組が五〇パーセント、被告らが各二五パーセントとすること(第二条)、③当企業体は、工事の完成のとき、当工事について決算をすること(第三条一項)、④決算の結果、利益又は欠損を生じた場合、構成員は、出資の割合によって、利益の配当を受け、又は欠損を負担すること(第四条)、⑤構成員のうち、いずれかが工事途中において破産又は解散した場合においては、本件協定の第一三条二項の規定を準用すること(第六条)などを定めた。

5  島田組は、原告に対して、平成七年三月、本件下請工事を発注し、原告との間で、本件下請契約を締結した(本件下請契約の注文主が本件共同企業体か、島田組かについて、後記のとおり争いがある。)。

6  原告は、同年一〇月末までに本件下請工事を完成して引き渡した。

7  その後、島田組は、和議申請をしており、原告に対して、本件下請工事代金一三三九万円のうち、三九万円を支払ったが、残代金一三〇〇万円の支払をしていない(島田組が和議申請したことにつき《証拠省略》)

8  被告らは、本件工事にかかる利益配当金として、島田組からそれぞれ四八六万七七八〇円を受領した(金額につき《証拠省略》)。

三  争点

1  本件共同企業体は民法上の組合か、実体のないペーパー・ジョイントに過ぎず、本件協定等の定めは通謀虚偽表示として民法九四条二項により無効となるか。

2  島田組は、本件共同企業体を代表して本件下請契約を締結する権限を有していたか。

3  本件下請契約の注文主は、本件共同企業体か、島田組か。島田組は、原告との間で、本件共同企業体の代表者として、本件共同企業体のための契約を締結したのか、単独の企業体の島田組として、島田組のための契約を締結したのか。

4  被告らの連帯債務の法的な根拠

四  争点についての当事者の主張

1  本件共同企業体は民法上の組合か、実体のないペーパー・ジョイントに過ぎず、本件協定等の定めは通謀虚偽表示として民法九四条二項により無効となるか。

(原告の主張)

(一) 一般に、共同企業体は、民法上の組合の性質を有するものであるところ、民法六六七条一項は、「各当事者カ出資ヲ為シテ共同ノ事業ヲ営ムコトヲ約スル」ことによって組合契約が成立すると定めている。

本件共同企業体においても、被告らと島田組は、本件協定を締結して、各自が出資をなし、北海道発注に係る建設工事を共同連帯して施工する旨の合意をなした。

このように、本件共同企業体は、その形成合意(本件協定)において民法所定の要件を満たすものであり、民法上の組合たる性質を有する通常の共同企業体である。

(二) 被告は、本件共同企業体は、いわゆるペーパー・ジョイントに過ぎないと主張するが、外観においては共同企業体の体裁を有するものの、その実質は単独受注と変わらないペーパー・ジョイントは、昭和五〇年代のいわゆるオイル・ショック不況時に多発した現象であって、受注機会の増大を図るための詐欺行為にほかならず、建設業界全体をスポイルするものであることから、昭和五二年一一月一一日付け建設省計発第一五三号「共同企業体の適正な活用について」と題する通達によって、その適正な指導が要請されており、現在では存在する余地がないものである。

(三) 現実の本件共同企業体をみても、以下のとおり、民法上の組合としての共同企業体の実体を有しており、ペーパー・ジョイントとは異なる。

(1) 本件共同企業体では、本件協定の第八条一項で、「構成員は、金銭その他の資産をもって出資するものとし、その割合及びこれに基づく損益配分等についてはその工事の契約の際、構成員全員の協議に基づき別添付属協定書により定める」旨が定められており、本件付属協定において、本件工事に関する出資割合について具体的に決められた。

そして、一般に、共同企業体における出資の方法として、発注者から交付される請負代金の処理方法に関連させて分類すると、発注者からの前渡金、部分払金、完成払金等の請負代金は、通常、共同企業体の代表者名義の預金口座に入金されるところ、①当該前渡金を右の預金口座にプールし、各構成委員からの出資に振り替える方法、②当該前渡金を速やかに各構成員に対して出資割合に応じて分配する方法、の二種類に大別される。①は、当該前渡金を集中管理し、工事費等工事原価が発生する都度、構成員から出資があったものとして振り替えるものである。②は、当該前渡金を速やかに構成員に分配し、各月の支払金額に応じて、再度、各構成員からその出資割合に従って、具体的に出資を受けるものである。

これを敷衍すると、共同企業体における資金繰りについては、①共同企業体の代表者が全て資金を立て替え、前渡金を受け入れ、竣工金が入金して支払債務が確定した後に、各構成員に予め定めた各出資割合に応じて清算金を支払う方式と、②代表者が、構成員に対して、必要の都度、支払うべき金額を出資割合に応じて出資請求し、出資金入金後に下請け等に支払を行い、また、前渡金等の入金があった場合には、その都度、出資割合に従った分配を行う方式、の二つがある。

本件共同企業体は、本件工事について北海道から前渡金を受領し、これを島田組の会計とは厳格に分離された共同企業体名義の預金口座に保管して、本件工事に関する支払に充てており、工事完了後に、構成員である被告らに対して清算金が支払われた。

右によれば、本件共同企業体の構成員である被告らは、右①の方法により出資していたと評価することができ、本件共同企業体においても、現実の出資行為がなされていた。

(2) 民法上の組合においては、組合の業務を執行する権利を有しない組合員にも、その業務及び組合財産の状況を検査する権限があるとされているところ(同法六七三条)、本件協定及び本件付属協定(以下「本件協定等」という。)には、代表者である島田組による業務執行に対する被告らの業務執行の監督権限を制限する旨の規定は存在せず、むしろ、本件協定の第一条等が三社の共同連帯施工を定めているのは、被告らに業務監督権限があることを前提としたものである。

そして、島田組においては、本件共同企業体の会計が島田組自体の会計と別に計上されており、本件共同企業体において、本件協定の第九条所定の運営委員会が現実に開催され、被告らも本件共同企業体の予算や決算について確認して、承認した上で、島田組から利益配当を受けているのであり、被告らによる検査、監督がなされていたとみることができる。

(3) 共同企業体の構成員全員が工事を共同施工する場合、共同企業体名義で労災保険契約を締結し、これを労働基準監督署に届け出るのが通常である。

本件においても、島田組は本件共同企業体名義で労災保険契約を締結しており、労働者に対しても、労災を受けた場合に本件共同企業体として責任を負う意思を有していたことが明らかである。

(4) 本件共同企業体は、共同企業体として三回にわたって北海道発注の工事に入札を行い、構成員各社が単独では受注できないような本件工事を共同企業体として受注しており、本件工事の注文主たる北海道との関係で、実体のある共同企業体としての態度をとって現に活動しており、工事の完成等について、共同企業体として連帯して責任を持つこととされていた。

(四) 被告は、本件協定は、通謀虚偽表示として無効であると主張しているが、右のとおり、本件共同企業体は民法上の組合としての実体を有し、現に活動していたのであるから、右の主張は失当である。

また、組合契約たる性質を有する共同企業体の設立合意については、その団体性に鑑みて、民法九四条一項の適用はないものと解すべきである。

仮に組合契約に同項が適用されるとしても、原告は善意の第三者であり、同条二項により原告に対してはその無効を対抗することができない。

(被告らの主張)

(一) 本件共同企業体は、表面上は共同企業体による共同施工の形態をとっているが、実際には島田組のみが施工に当たり、被告らは資金、人員、機械等を全く拠出せず、すなわち、工事には一切関与せず、単に島田組から利益額の各二五パーセントを被告らが受け取る約束のいわゆるペーパー・ジョイントである。

すなわち、本件共同企業体は、北海道の発注する公共工事に関する「Bランク」の業者であった島田組が、その上位の「Aランク」の工事を受注することができるように、北海道庁の指導により結成されたものである。被告らと島田組の組み合わせも北海道庁が決めたもので、三社は、本件共同企業体の結成まで、相互に何ら取引関係はなかったし、共同企業体を結成したこともなかった。

そして、このようにして結成された共同企業体が工事を落札した場合には、当該共同企業体の代表者が単独で工事を施工し、他の構成員は利益の分配を受けるのが慣例となっていた。これは、共同企業体を構成する会社が共同で工事を施工すると、経費が余計にかかることや、役割分担を利益配分の割合に応じて決めることが非常に困難であることなどによるものである。原告は、ペーパー・ジョイントは現存しないと主張するが、このように、実際には大半の共同企業体はペーパー・ジョイントに過ぎないのが実態である。

本件共同企業体の結成に際してなされた被告らと島田組の真実の合意内容は、①北海道が発注する工事の入札に本件共同企業体名義で参加すること、②工事を落札した場合、右の慣例に従い島田組が工事を単独施工し、被告らはその利益の配分を受けること、の二点だけであり、民法上の組合を形成するとの合意は存在していなかった。

(二) 本件共同企業体の現実の状況をみても、以下のように、民法上の組合としての実体を持たない単なるペーパー・ジョイントに過ぎなかった。

(1) 被告らは本件共同企業体に関して何らの出資もしておらず、また、島田組から出資を求められたこともなかった。

共同企業体における出資の方法として、原告主張の二種類に分類する仕方があることは争わない。しかしながら、原告主張の前渡金をみても、確かに、北海道が発注する公共事業の場合、請負人が請求すれば工事代金の四〇パーセント以内の前渡金が支払われる仕組みになっているが、被告らは本件工事にかかる前渡金については一切関知していないし、島田組と被告らとの間において前渡金の処理に関して何らの話し合いも合意もなかった。

したがって、島田組が注文主たる北海道から前渡金を受領してこれを本件工事に関して支出したからといって、被告らが出資したことにはならない。もし、請負代金の一部前払があった場合に、直ちにこれを出資とみることになると、ペーパー・ジョイントの場合、たまたま請負代金の前払があれば組合契約となり、なければ組合契約ではないという不合理な結果になる。

(2) 民法上の組合として共同で事業を行ったというためには、最小限、業務執行の監視という形でも構成員全員が事業の遂行に関与する必要がある。すなわち、一般に、「代表者に認められた業務執行の事項については、他の構成員は直接執行することはできないが、その業務および組合財産状況を検査する権限は必ず与えられる(民法六七三条参照)。この権限は、共同企業体の構成員に与えられる固有の権限であり、もしこの権限すら有しない旨の特約のある構成員があれば、それはもはやここでいう共同企業体とはいえない」(建設業共同企業体研究会編著「建設業共同企業体の解説」(財産法人建設業振興基金発行、清文社、以下「共同企業体の解説」という。)一一三頁)とされている(《証拠省略》)。

しかるに、本件工事は、島田組が当初より単独で施工しており、被告らは島田組から共同して施工するよう求められたことはなく、本件共同企業体を結成した後に被告らが島田組と会合をもったのは、利益配当の割合を決めた平成七年四月一七日と、工事完了後に利益配当のための決算をした時の二回だけであり、被告らは島田組の事業の執行について全く関与していなかった。

なお、原告が指摘するように、本件共同企業体の会計が島田組自体の会計と別に計上され、これについて被告らが確認、承認しているが、これは、本件共同企業体の結成の際の合意の実体が、利益配当契約である以上当然のことであり、これをもって共同で事業を行ったと評価できるものではない。

(3) 原告は、島田組が労災保険を本件共同企業体名義で締結したことを指摘するが、これは、真正な共同企業体を仮装するために過ぎない。

(4) 被告らは、発注者である北海道に対しては工事の完成について連帯責任を負うが、これは、本件共同企業体が民法上の組合だからではなく、被告らが北海道に対して、工事の完成について島田組と連帯責任を負う旨約束したことに基づく契約上の責任である。

(三) 以上のように、本件共同企業体は、ペーパー・ジョイントに過ぎず、民法上の組合としての共同企業体の実体を有しておらず、被告ら及び島田組が本件協定等を締結したのは、真正な共同企業体であるとの外観を作出するためであって、真実の合意ではない。よって、本件協定等は通謀虚偽表示として民法九四条一項により無効である。なお、原告主張のように、組合契約に民法の意思表示に関する規定が全面的に排除されるという理由は認められない。

また、民法九四条二項により保護される第三者とは、虚偽の外観を信じて取引関係に入った第三者をいう。したがって、本件共同企業体が真正な共同企業体(民法上の組合)であり、島田組が倒産した場合においても、他の構成員である被告らに下請代金を請求できると信じて契約を締結した第三者であれば、同項の第三者に該当すると考えられるが、原告は、本件下請契約締結時に被告らの資力や信用度について何らの関心も示していなかったのであるから、同項で保護される第三者には該当しない。

2  島田組は、本件共同企業体を代表して本件下請契約を締結する権限を有していたか。

(原告の主張)

(一) 本件協定の第六条には、島田組を本件共同企業体の代表者とする旨が、第七条には、代表者が「運営委員会の決定に従い自己の名義をもって請負契約に基づく行為を行う権限」を有する旨が規定され、「請負契約に基づく行為」について包括的代表権限を有する旨が明記されている。そして、島田組は、本件共同企業体の運営委員会の決定により、自己の名義において下請契約を締結する権限を授与されていた。また、共同企業体が工事の一部について下請契約を締結することは、当初から予定されていることであり、右行為は、まさに本協定の第七条の「請負契約に基づく行為」に該当する。

したがって、島田組が、本件下請契約について、本件共同企業体の代表権限を有していたことは明らかである。

(二) 仮に本件協定が通謀虚偽表示によるものであったとしても、前記1の原告の主張の(四)と同様に、これをもって善意の第三者である原告に対抗することはできない。

(被告らの主張)

前記1の被告らの主張の(三)のとおり、本件協定は通謀虚偽表示によるものであり、島田組と被告らとの間には、運営委員会は利益の配分率を決める以外に開く予定はなかった。

したがって、本件協定の第七条の「運営委員会の決定に従い自己の名義をもって請負契約に基づく行為を行う権限」を有するとの部分も合意はなされておらず、無効であり、島田組には代表権限がない。

3  本件下請契約の注文主は本件共同企業体か、島田組か。島田組は、原告との間で、本件共同企業体の代表者として、本件共同企業体のための契約を締結したのか、単独の企業体の島田組として、島田組のための契約を締結したのか。

(原告の主張)

(一) 島田組が作成した本件下請契約の注文書(《証拠省略》)の注文者欄には、「株式会社島田組」と不動文字で印刷されているところに、後から「島田・高橋・小野経常建設共同企業体」のゴム印が押印されている。

そして、意思表示の主体は誰かという契約の成立要件の問題については、当該意思表示の内容や外観から客観的に判断されるべきであるところ、右によれば、本件下請契約の注文主は本件共同企業体とみるべきである。なお、共同企業体は納税者となることはないのであって、被告らが主張するように、税務申告上の理由から注文書の注文者欄に本件共同企業体名のスタンプを押したということは考えられない。

被告らは、島田組による手形の支払方法について指摘するが、一般に、共同企業体の経理において、下請会社に対する手形の支払は、代表者が自己の名義の約束手形を振り出すのが大半であり、構成員が裏書する方式はむしろ例外である。したがって、本件下請工事の代金の支払手形について、原告が被告らに裏書を求めなかったことは、原告が島田組を注文者と認識していた根拠とはなり得ない。

(二) 仮に、島田組が本件共同企業体のためにすることを示すことなく本件下請工事契約を締結していたとしても、商法五〇四条本文により、その効果は本件共同企業体を構成する被告ら及び島田組に帰属する。本件下請工事は、本件共同企業体が受注した本件工事の一部であるから、本件共同企業体の債務の履行の一環としてなされたものであることは明らかである。

なお、商法五〇四条の適用に関しては、被告ら主張のように代理意思の存在が請求原因となるものではなく、その不存在が抗弁となるものと解すべきであり、島田組が本件共同企業体のためにする意思を有していなかったとの証拠は存在しない。

(被告らの主張)

(一) 本件下請契約の注文者が誰であるかは、当事者の意思表示を合理的に解釈して決すべき問題であるが、以下の事実を総合すると、本件下請契約の注文者は島田組であると解すべきである。

(1) 島田組の意思

① 島田組は、本件下請工事を原告に受注するに際し、本件工事が本件共同企業体として請け負った工事である旨の説明をしておらず、島田組が通常原告に工事を発注するのと変わらない形態で発注し、また、原告に対する工事代金も全て島田組の手形で支払われており、島田組が本件下請契約の注文者としての義務を被告らに発生させる意思を有していたとは到底考えられない。

② 島田組作成の注文書には確かに本件共同企業体名のスタンプが押捺されているが、これは、島田組において、税務申告上、島田組名義で受注した工事と本件共同企業体名義で受注した工事を区別するために、便宜上現場の担当者が本件共同企業体のスタンプを押印したに過ぎない。

(2) 原告の意思

① 原告は、島田組とは約二〇年前から取引があるが、被告らとはこれまで全く取引がなかった。原告は、本件共同企業体を構成する被告らの信用度については全く関心を持っておらず、注文者が本件共同企業体であると信じ、その信頼に基づいて契約を締結したとはいえない。

② 原告作成の注文請書(《証拠省略》)や請求書(《証拠省略》)は、いずれも本件共同企業体宛ではなく、島田組宛となっており、島田組が単独で受注した工事の下請けをする場合と何ら変わらない処理をしている。

③ 原告は、本件下請工事代金の支払手形について、被告らに裏書を求めるなど、被告らの連帯責任を確認しておこうとする考えは全くなかった。

(二) 商法五〇四条の適用に関しては、代理意思の存在が請求原因となるものと解すべきである。

しかるに、島田組が本件共同企業体のためにする意思を有していたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、前記(一)(1)のとおり島田組は単独施工の意思で原告に本件下請工事を発注したのであるから、商法五〇四条は適用されない。

4  被告らの連帯債務の根拠

(原告の主張)

本件協定の第一〇条は工事の履行に関する各構成員の連帯責任を定め、また、本件付属協定においては損益分担に関する具体的な規定が存し、被告らもそれぞれ二五パーセントずつの損失を負担することとされている。

したがって、商法五一一条一項により、被告らは本件工事代金債務について連帯責任を負う。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

前記1の被告らの主張の(三)のとおり、本件付属協定の損益分担に関する規定は、通謀虚偽表示により無効である。北海道の公共事業においては、事業を行ったことにより損失が生じることは通常は起こらないため、被告らと島田組との間においては、損失の分配については何ら合意されていなかった。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  共同企業体一般、本件共同企業体の結成と運営実態及び本件下請工事について

前記第二の二の前提となる事実に、《証拠省略》を総合すると、以下の各事実が認められる。

1  共同企業体一般について

(一) 建設業における共同企業体(ジョイント・ベンチャー)とは、複数の建設業者が共同で建設工事の施工を行うことに合意して結合した事業組織体のことであり、その法的性質については、一般に民法上の組合であると理解されている。

共同企業体による施工の目的として、中小建設業の振興、技術の補完、施工の確実性、技術又は経験の交流、円滑な施工の確保、危険分散等が挙げられており、単なる受注機会の増大を図ることを目的とする共同企業体は不適切であると指摘されている。

共同企業体は、結成時期による分類として、(特定)建設工事共同企業体と(経常)建設共同企業体とに大別することができる。前者は、ある特定の建設工事の施工を目的として、工事ごとに結成される共同企業体をいい、後者は、年度当初に競争入札参加願いを提出する際に共同企業体を結成しておき、共同企業体として業者登録を受けている共同企業体をいう。

また、施工形態による分類として、共同施工方式(甲型共同企業体)と分担施工方式(乙型共同企業体)とに大別することができる。前者は、共同企業体の全構成員が出資割合に応じて資金、人員、機械等を拠出して工事を施工するもので、後者は、各構成員が共同企業体として請け負った仕事を分担して施工するものである。(《証拠省略》)。

本件共同企業体は、右の分類によると、甲型の(経常)建設共同企業体に当たる。

これらの共同企業体においても、各構成員のみで工事を完成することは困難であり、下請業者を使用することが多いと指摘されている。そして、共同企業体で使用する下請関係は、甲型共同企業体と乙型共同企業体とで異なるとされている。

甲型共同企業体では、共同企業体が下請業者を使用し、共同企業体における最高意思決定機関であり、各構成員を代表する委員各一名をもって構成され、共同企業体の代表者から選任された委員が委員長を務める運営委員会において、下請業者を選任して全構成員の責任の下に下請活用を図っていくこととされる。他方、乙型共同企業体では、各構成員がそれぞれ各自の責任において下請業者を選任し使用しており、この場合、下請業者の元請負人は各構成員であるとされている(「共同企業体の解説」一三〇頁以下参照)。このことは、建設省建設振興課長から関係省庁担当課長、都道府県担当部長、建設業者団体の長等に宛てた昭和五三年三月二〇日付け建設省計振発第一一号「共同企業体の事務取扱いについて」においても、「甲型共同企業体の下請契約は、構成員全体の責任において締結するものである」、「乙型共同企業体の下請契約は、構成員各自が締結するものである」と明記されている(《証拠省略》)。

そして、甲型の共同企業体において、下請契約を締結する場合でも、代表者の注文書等の書式を用いるのが通常の処理となっており、一般的には、代表者の会社名の記名押印の上に、共同企業体の代表者である旨の表示がなされるし、このようになされるべきである(《証拠省略》)が、この表示が省略されていることもあり(《証拠省略》)、共同企業体の工事と関連してなされた取引は、特段の事情がない限り、共同企業体と取引したものと解すべきであるとの見解もみられる(《証拠省略》)。

そして、共同企業体における下請業者の利用や資金管理方法の運用について、建設省建設経済局長から社団法人日本土木工業協会会長に宛てた平成一一年二月一〇日付け建設省経振発第二〇号「共同企業体の適正な運用について」において、「重要な事項について構成員間で疑義の生じることのないよう公正に共同企業体を運営するため、資金管理方法や下請企業の決定等重要な事項については、代表者のみで決定せず、共同企業体の最高意思決定機関である運営委員会において協議の上決定すること」とし、「共同企業体の行う取引は、構成員個人としての取引ではなく、共同企業体としての取引であることを明確にするため、共同企業体の下請契約は、共同企業体の名称を冠して共同企業体の代表者及びその他の構成員全員の連名により、又は少なくとも共同企業体の名称を冠した代表者の名義で締結すること。また、共同企業体の預金口座については共同企業体の名称を冠した代表者名義の別口預金口座によるものとすること」、「下請企業の支払については、……公共工事における完成払等発注者から現金による支払があったときには、共同企業体は下請企業に対して相応する額を速やかに現金で支払うよう配慮すること」との行政指導がなされている(《証拠省略》)。

(二) ペーパー・ジョイントとは、表面上は、共同企業体による共同施工の形態をとりつつ、実際は、構成員間の取引によって、一部の構成員のみが施工に当たり、他の構成員は施工には全く関与せずに、もっぱら、施工に当たった会社から見込み利益相当額を名義料的に受け取る形態をいい、これを法的にみると、共同事業を営むという民法上の組合として共同企業体の本質を失い、組合契約たり得ないものである。

このようなことが行われる理由として、受注機会の確保のみを目的とした共同企業体が結成されること、発注者が恣意的に共同企業体の構成員を指名するため、構成員相互になじみのない場合があること、単独で施工するのが能率的であるのに共同企業体の結成が求められること等が挙げられている。

このペーパー・ジョイントは、かねてから一部にその存在を指摘され、これは、施工には何ら関与せず、仕事を全くしないにもかかわらず利益を得るという不当な結果を招き、建設業界全体をスポイルするおそれが強いとの批判がなされていた。

このようなことを背景として、建設省計画局長から主要な公共工事発注機関に対して、昭和五二年一一月一〇日に、共同企業体の適正な活用について、「本来、共同企業体は各構成員相互の信頼と協調を前提として共同の責任で施工されるよう構成され、運営されるべきものであるので、発注者においてもこの趣旨をふまえ、共同企業体がその協定の定めるところにより共同で円滑かつ、適切に施工ができるよう構成員、出資の割合等について適確な指導をお願いする。」との通達(建設省計振発第一五三号)が出されていた。(《証拠省略》)

(三) 共同企業体が結成時に作成する協定書については、昭和三七年一一月二七日付け「中小建設業の振興について」と題する建設事務次官通達(建設省発計第七九号)に示された標準共同企業体協定書(甲・乙)に準じて作成されるのが一般的である(甲が前記の甲型共同企業体に、乙が同じく乙型共同企業体に対応するものである。)。また、特定建設工事共同企業体協定書(甲)に基づく共同企業体における活動を想定し、その規則として、平成四年三月に、共同企業体適正運営推進協議会、建設省、財団法人建設業振興基金によって、運営委員会規則、施工委員会規則、経理取扱規則等の共同企業体運営モデル規則が策定され、公表されている。(《証拠省略》)

(四) 一般に、共同企業体における出資の方法は、発注者からの請負代金の処理方法に関連させると、①発注者から共同企業体の代表者名義の預金口座に入金された前渡金を、その預金口座にプールし、各構成委員から出資に振り替える方法と、②当該前渡金を速やかに各構成員に対して出資割合に応じて分配する方法との二種類に大別され(争いがない。)、①は、当該前渡金を集中管理し、工事費等工事原価が発生する都度、構成員から出資があったものとして振り替えるものであり、②は、当該前渡金を速やかに構成員に分配し、各月の支払金額に応じて、再度、各構成員からその出資割合に従って具体的に出資を受けるものであり、いずれの方法も、民法上の組合における各構成員による出資として評価することができる。

なお、右を敷衍し、共同企業体における資金繰りについて、原告において実務経験の長い社員は、①代表者が共同企業体の資金を全て立て替え、発注者からの前渡金等を受け入れ、竣工金が入金して支払債務が確定した後に、各構成員に出資の割合に応じて精算金を支払う方法と、②代表者が、共同企業体に資金の必要が生じる都度、支払うべき金額を出資の割合に応じて構成員に対して請求し、その入金後に下請け等に支払を行い、発注者からの前渡金等の入金があると出資の割合に応じて各構成員に分配する方法とに大別することができ、大手企業の大型工事については、②によって行うのが一般的であるが、最近は①によるケースが増えており、中小会社の場合は、①の方法によって出資がなされるのが一般的であると説明している。また、前記共同企業体運営モデル規則では、共同企業体の代表者が発注者から収納した請負代金(前払金、部分払金及び清算金)の扱い方について、各構成員の出資の割合に基づき、速やかに各構成員に分配する方法を定めているが、前払金保証約款に基づく前払金の取扱いについては、共同企業体代表者名義の専用の預金口座に留保する方式も考えられるとしている。(《証拠省略》)。

2  本件共同企業体の結成と運営実態

(一) 被告ら及び島田組は、平成六、七年当時、いずれも北海道の発注する工事に関して、五〇〇〇万円以上一億二〇〇〇万円未満の建築工事を請け負う資格があるBランクに位置付けられていた建築業者であった。こうしたBランクの業者が数社集まって共同企業体を構成すると、Aランクの業者しか請負資格のない一億二〇〇〇万円以上の建築工事を請け負うことができる。

北海道では、当時、毎年度末に、北海道が発注する工事に指名願いを提出したBランクの業者に対し、共同企業体を結成するように指導を行っていた。この共同企業体の企業の組み合わせ及び当該共同企業体の構成員のどれを代表者とするかは、北海道が進めて決められるのが実情であった。

そして、北海道が共同企業体に発注する工事に関して、その一部において、共同企業体として工事を落札しても、共同企業体の構成員全員が共同して人員や機械等を配置する等、人的、物的に直接関与して受注した工事を施工するのではなく、共同企業体の代表者が単独で直接関与して施工し、他の構成員は、工事の施工に直接関与しなくとも、出資割合に応じた利益配当を受けることができるという運用がなされていた。これは、共同企業体の方式が、北海道から広く受注資格を得る利益がある一方で、各構成員が、工事に直接関与する方法で、共同して施工に当たるとすると、経費が余計にかかることや、利益配当の割合に応じて各構成員の人的、物的な役割の分担を決めることが困難であるということが挙げられる。(《証拠省略》)

(二) 被告ら及び島田組の三社は、平成六年度の北海道が発注する工事に入札するために、平成六年の年度当初に、前記の標準共同企業体協定書(甲)に準じた本件協定書を作成し、本件共同企業体を結成した。この三社の組み合わせ及び島田組を代表者とすることは、右(一)のとおり、北海道が進めて決められたものであり、被告らと島田組との間には従来全く取引関係はなく、それまでに共同企業体を結成したこともなかった。

本件共同企業体は、平成六年度に北海道が発注する工事に関して、本件工事を含む三件について入札を試みたが、そのいずれの場合も、北海道からの入札参加の案内に基づいて、島田組が被告らから委任状を徴して入札を行っていた。なお、これらの入札に際して、三社の間で入札金額等について相談したことはなく、島田組が独自の判断で入札金額等を決定していた。

この結果、本件共同企業体が本件工事を落札し、本件共同企業体は、平成七年三月一四日、北海道との間で、請負代金二億四三三八万九〇〇〇円(消費税七〇八万九〇〇〇円を含む。)、工期を平成七年三月一五日から同年一〇月二〇日として、本件工事を請け負う旨の契約を締結した。

(《証拠省略》)

(三) 三社は、平成七年三月一一日、本件共同企業体の第一回運営委員会を開いた。その席上、本件工事における本件共同企業体の各構成員の出資割合を、島田組五〇パーセント、被告ら各二五パーセントとすること、本件工事の施工体制について、島田組から社員を派遣し、施工を進めることを合意した。また、三社は、そのころ、本件付属協定書を作成して、北海道に提出した。

そして、三社は、同年四月一七日、第二回運営委員会を開いて、本件共同企業体に関する運営委員会規則並びに本件工事に関する作業所規則及び経理取扱規則を設けた。

この運営委員会規則、作業所規則、経理取扱規則は、いずれも、北海道等の第三者に開示又は提出することを予定したものではなく、例えば、作業所規則上、本件共同企業体は、本件工事施工のため、本件共同企業体作業所を設け、作業所は、運営委員会の決定に従い、工事を円滑に実施するため施工委員会を設け(第一、二条)、施工委員会は毎月下旬定例開催を原則とする(第四条二項)と定めながら、実際には、施工委員会は開催されたことがないなど、その一部には実態とは合致していない部分があるものの(ただし、このことも、運営委員会の決定がなかったために施工委員会が設置されなかった、又は、施工委員会は、施工委員会の委員長を務める島田組の委員が開催の必要を認めた場合もしくは構成員の要求があった場合に開催されるべきところ(同規則第四条一項)、これらがなされなかったとみることも可能である。)、そのほかの規則、例えば、①運営委員会は各構成員を代表する運営委員で組織し、運営委員長は島田組の代表取締役とする(第二条一項)、②共同企業体の運営に関する基本方針、工事施工全般に関する基本方針、実行予算、決算の承認、特に付議を要すると認められる事項等を運営委員会の付議事項とする(第三条)、③運営委員会は委員長が開催の必要を認めた場合又は構成員の要求があった場合これを開催する(第四条一項)、委員長は運営委員会を召集し、その議長となり運営委員会の業務を統轄する(同条二項)等を内容とする運営委員会規則、①取引業者との契約注文に関する事務手続及び書式にいては、島田組の方式により共同企業体代表者の名義をもって行う(第七条二項)、②作業所員に支給する毎月の給料は本件工事の工事原価とする(第一〇条)、③労災保険及び本件工事に付する損害保険について本件共同企業体名義で加入し、その費用は本件工事の工事原価とする(第一一、一二条)等を内容とする作業所規則や、①本件工事の経理事務は、全て島田組の方式及び書式により行い(第二条)、経理書類及び証書類は島田組が保管する(第三条)、②島田組が工事代金を発注者より受領した時は、富士銀行函館支店口座により監理し毎月の支払に充当する(第四条)、③取引業者への支払業務は株式会社島田組が行い、発行する約束手形は島田組名義をもって行う(第五条)、④島田組は構成員に実行予算書、各月工事金収支明細予定書、決算書を交付する(第六条)等を内容とする経理取扱規則は、実態に合致していた。

また、三社は、右の会議で、代表者である島田組が作成した本件工事の実行予算書(案)について検討の上、承認を与えた。この実行予算書には、本件工事の純利益を概ね本件工事代金の八パーセントと見積もられ、各下請工事ごとに下請業者にいくらの請負金額で発注するかも記載されていた。

島田組は、被告らに、右の席上、右各規則を記載した書面及び右承認を得た実行予算書を交付した。(《証拠省略》)

(四) 本件工事の実施に当たり、工事現場には、本件共同企業体が施工業者である旨の表示がなされ、三社が提供したそれぞれの社旗が掲げられていた。また、労災保険及び建設工事損害保険も本件共同企業体名義で加入しており、その費用は、作業所規則の定めにより本件工事の工事原価とされた。

本件工事は全て、三社の前記第一回運営会議での合意に基づき、島田組が派遣した社員二名の直接の監理、監督の下で、運営委員会において承認された実行予算書に記載された各下請工事ごとに、各下請業者によって施工されており、被告らの社員が本件下請工事の現場や現場事務所に赴いて、これらの下請業者に対して直接に監理、監督することはなかった。

他方、島田組は、本件工事について発注した各下請業者の名前を明記して、それぞれの工事実績を記載した各月工事金収支明細予定書を作成した上で、被告らに交付していた。(《証拠省略》)

(五) 島田組の下請業者に対する下請工事請負代金の支払は、島田組名義で振り出した約束手形が用いられ、被告らの裏書はなされていなかった。

しかし、島田組が受領した領収証は、全て本件共同企業体宛に発行されたものだった。そして、島田組は、本件工事に関する収入及び支出と、島田組名義で受注した工事に関する収入及び支出とを帳簿上明確に区別して管理していた。(《証拠省略》)

(六) 島田組は、被告らの押印を得た上で、本件共同企業体として三社名が連記された前渡金請求書を北海道に提出し、同年六月末ころ、北海道から本件工事代金の前渡金として約一億円を受領した。

島田組代表者によると、右前渡金は、専用に開設された本件共同企業体名義の普通預金口座に入金され、右口座に入金された前渡金は、代表者である島田組も現金で引き下ろすことはできず、支払依頼書によって支払先に直接振り込む方法によってしか使うことができないものであった。

島田組は、右前渡金を被告らに分配せずに、その全額を本件工事に関する支払先に振り込んで使用した。(《証拠省略》)

(七) 島田組は、同年一〇月末までに本件工事を完成し、北海道から請負残代金を受領し、三社は、第三回運営委員会を開いた。

その席上、島田組は、被告らに本件工事の決算書を交付し、被告らはこの決算を承認した。そこで、島田組は、右の決算に基づいて、各構成員の出資割合に応じて被告らの配当額を計算し、被告らにそれぞれ四七六万七七八〇円の利益配当を行った。

三社は、それぞれ、右決算書に基づいて、各社の出資割合に応じた売上げ及び工事原価を、自己の売上げ及び工事原価として経理計上した。

(《証拠省略》)

3  本件下請工事

(一) 原告は、島田組とは、約二〇年間の取引関係があり、島田組が単独名義で受注した工事の下請工事を受注することもあった。他方、原告は、被告らとはそれまで取引関係はなく、本件下請工事を受注するに際しても、特に被告らの信用を調査することはなかった。(《証拠省略》)

(二) 原告の北海道支社函館作業所長は、平成七年二月ころ、建設業界の新聞の記事によって島田組を代表者とする本件共同企業体が本件工事に入札したことを知り、本件工事の下請工事を受注したいと考え、島田組の事務所に赴き本件工事の規模等を確認した上、本件共同企業体が落札した後、島田組との間で交渉して本件下請契約を締結した。

本件下請契約に用いられた契約関係書類は、島田組が通常使用しているものであり、注文書、注文書(控)及び注文請書の三枚が複写式のセットになっていて、それぞれの「注文者欄」には、島田組の住所と会社名、代表取締役の名前が不動文字で記載されていた。

そして、島田組は、従来から島田組が共同企業体の代表者となった工事に関して、下請業者に発注する際にしていたと同様に、本件工事における各下請業者に対する下請工事や、原告に対する本件下請工事の発注に当たっても、右各書面のうち、下請業者が保管することになる一枚目の注文書には、「注文者欄」の、右の島田組の表記の上部に、「島田・高橋・小野経常建設共同企業体」名のゴム印を押印し、島田組が保管する注文書(控)及び注文請書には特に押印はしていなかった。(《証拠省略》)

(三) 原告は、同年一〇月末までに本件下請工事を完成して、島田組に本件下請工事代金の支払を請求した。その際、原告が作成した請求書の宛名は島田組となっていたが、原告が作成した領収書は、他の下請業者の場合と同様、注文書の表記と同じく本件共同企業体宛であった(《証拠省略》)。

二  争点1(本件共同企業体は民法上の組合か、実体のないペーパー・ジョイントに過ぎず、本件協定等の定めは通謀虚偽表示として民法九四条二項により無効となるか)について

1  建設業における共同企業体は、基本的には民法上の組合としての性質を有するものであるところ、民法上の組合契約の成立要件は、①二人以上の構成員が、②出資をなして、③共同の事業を営むこと、を内容とする契約を締結することである(民法六六七条一項)。

そして、被告ら及び島田組の三社は、前記一2(二)のとおり、甲型の経常建設共同企業体結成の際に用いられる標準共同企業体協定書(甲)に準じて作成した本件協定書を用いて、本件共同企業体を結成する旨の合意をしており、本件協定には、前記第二の二2のとおり、本件共同企業体は、北海道発注に係る建設工事を共同連帯して施工することを目的とする旨(第一条)、構成員は、金銭その他の資産をもって出資するものとし、その割合とこれに基づく損益配分等についてはその工事の際に付属協定書により定める旨(第八条一項)の定めがある。そして、前記第二の二4及び第三の一2(三)のとおり、三社は、各社の出資割合を定めた本件付属協定を締結している。

したがって、被告ら及び島田組は、民法上の組合の性質を有する共同企業体を設立する契約を締結したものと認められる。

2  被告らは、本件共同企業体は実体のないペーパー・ジョイントに過ぎず、被告ら及び島田組が締結した右1の共同企業体の結成の契約は通謀虚偽表示であって、真実の合意内容は、①北海道が発注する工事の入札に本件共同企業体名義で参加すること、②工事を落札した場合、島田組が工事を単独で施工し、被告らはその利益配分を受けること、の二点だけであり、民法上の組合を形成する合意は存在せず、本件共同企業体の結成の合意は、利益配当契約である旨主張する。

しかしながら、以下に判示するとおり、被告ら及び島田組は、実質的にも、民法上の組合契約の締結をしており、本件共同企業体は、民法上の組合としての実体を有するものとして結成され、運営されていたものと認められるから、被告らの右の主張は採用することができない。

3(一)  民法上の組合契約の成立要件は、右1に記載のとおりであるから、契約当事者が実質的に合意した内容が、民法上の組合契約と認められるか否かについても、①二人以上の構成員が、②出資をなして、③共同の事業を営むことを内容とする合意をしたと認められるか否かを判断してなされるべきであり、当事者による合意の後の現実の運営の状況は、その合意が真実のものとしてなされたか否かを推認するための間接事実として位置付けることができる。

そして、右の各要件についてみると、「二人以上の構成員が」なすべき「出資」の要件については、金銭、その他の物、権利、労務等がその対象とされている。

次に、「二人以上の構成員が」、「共同の事業を営むこと」との要件については、この共同事業の要件によって、構成員の全てが事業の遂行に関与する権利を持つことが必要とされるのであるが、この関与の程度は、各構成員によって一様でなくてよく、構成員は、契約によって業務執行や代表権限を他の一人又は数人の構成員に委ねることができる(民法六七〇条ないし六七二条参照)。しかし、その場合であっても、その構成員は、最小限、業務及び財産の状況を検査する権限を保有することによって、事業の遂行に関与することができるのであり(民法六七三条)、もし、この業務執行に対する監督の権限もないことが明らかな契約であれば、組合契約たり得ないと解される。

また、この共同事業の要件によって、構成員の全てが事業の成功に利害関係を有することが必要とされる。このため、営利事業を目的とする場合には、各構成員に対して利益の分配がされるべきであり、ある構成員が利益の分配を受けない旨の定めをすることは組合契約の性質に反し無効であると解されるのである。

(二) 民法上の組合の性質を有する共同企業体においても、前記のとおり、甲型共同企業体にあっては、共同企業体の全構成員が出資割合に応じて資金、人員、機械等を拠出して工事を施工するものとされている。

また、共同企業体における代表者に委ねられた業務執行については、他の構成員は直接執行して関与することはできないが、その業務及び組合財産状況を検査する権限は必ず与えられる。そして、この権限は、共同企業体の構成員に与えられる固有の権限であり、もしこの権限すら有しないとの特約がある構成員があれば、それはもはや共同企業体とはいえない、と一般に解されている(「共同企業体の解説」一一三頁参照)。

(三) 以上の結果として、共同企業体の外形を装いながら、その実質においては、一部の構成員以外の構成員は、右の監督権限すら有せず、直接たると、間接たるとを問わず、受注した工事の遂行や財産の管理に関して、全く関与せず、また、事業の成功に利害関係を有せず、施工に当たる構成員から見込み利益相当額を名義料的に受け取るに過ぎない形態のペーパー・ジョイントは、共同事業を営むという民法上の組合としての共同企業体の本質を全て失っており、組合契約の合意を欠くものであり、工事の遂行によって利益が出た場合に限り配当を受ける合意がなされる場合であっても、それは、いわゆる利益配当契約といえても、組合契約たり得ないと解されるのである。

4  以上の観点から、本件において、本件共同企業体の結成に当たり、実質的にも、民法上の組合契約の締結がなされ、本件共同企業体が民法上の組合としての実体を有するものとして結成され、運営されていたと認められるか否かについて検討する(以下に摘示する事実関係は、特に判示しない限り、前記一に認定の各事実による。)。

(一) 被告らの本件共同企業体の業務及び財産の状況に対する監督の状況について

(1) 本件共同企業体の結成に当たり定められた本件協定では、第六条において島田組を代表者となし、第七条においてその代表者としての権限が定められた。そして、本件共同企業体では、運営委員会規則が定められ、代表者である島田組の代表取締役が運営委員長に就任するとされ(第二条一項)、共同企業体の運営や工事施工全般に関する基本方針、実行予算、決算の承認、特に付議を要するとされる事項等が運営委員会の付議事項とされた(第三条)。また、経理取扱規則では島田組が構成員に契約書写、実行予算書、各月工事金収支明細予定書、決算書を交付することとされた(第六条)(《証拠省略》)。

そして、島田組及び被告らの三社は、三回にわたり運営委員会を開催しており、第一回運営委員会では、本件工事の施工体制について基本的な合意がされて、島田組が社員を派遣し、施工を進めることとされ、また、第二回運営委員会では、各規則が定められ、各下請工事ごとに下請業者にいくらの請負金額で下請工事を発注するかが記載された実行予算書が承認され、これらが交付された。

そこで、島田組は、本件工事の全てについて、運営委員会で承認された下請工事ごとに下請業者との間で下請契約を締結し、島田組が派遣した社員二人の直接の監理、監督の下で、右の各下請業者が本件工事についての下請工事を施工した。そして、島田組は、本件工事について発注した各下請業者の名前を明記し、それぞれの工事実績を記載した各月工事金収支明細予定書を作成した上で、被告らに交付していた。また、島田組は、前記の経理取扱規則の定めのとおりに本件共同企業体における経理業務を行っており、本件共同企業体の本件工事に関する収支を島田組の収支とを帳簿上明確に区別して管理しており、北海道からの本件工事代金の前渡金は、経理取扱規則の第四条の定めのとおり、本件共同企業体名義の専用の普通預金口座に全額入金され、その全てが本件工事に関する支払先に振り込んで使用されていた。

さらに、第三回運営委員会において、島田組は、被告らに本件工事の決算書を交付し、被告らはこの決算を承認した。

(2) このように、本件共同企業体における本件工事の施工は、最高意思決定機関である運営委員会の決定によって、島田組が主体となって、その派遣した社員の直接の監理、監督の下で、下請業者によって施工されて完成されたものであり、被告らは、直接的には、管理、監督行為は行っていないのではあるが、被告らは、運営委員会において、下請業者を利用することや下請工事ごとの下請契約の請負金額が記載された実行予算書を承認しており、各月の下請業者ごとの下請工事の実績の状況も把握していた。また、本件工事の完成後にあっても、その収支状況を把握して、決算の承認を行っていたのである。

また、被告らは、島田組から交付された右の実行予算書、各月工事金収支明細予定書、決算書の各記載に疑問があるときには、島田組に説明を求めて検査したり、決算書を裏付ける請求書、発注書、契約書、領収証等の証書の開示を求めることも可能であったのであり、島田組としても、被告らからこれらの要求があれば応じなければならないと認識していたことが認められる(《証拠省略》)。

さらに、被告らは、少なくとも北海道との関係では、島田組と連帯して本件工事を完成させる義務を負い、また、本件工事に瑕疵があった場合には島田組と連帯して担保の責めに任ずることとなるから(争いがない。)、島田組が施工に当たる本件工事に何らかの問題が生じる可能性がある場合には、運営委員会や施工委員会を開催することを島田組に要求して、その施工方法等について是正を求めるなどの措置をとることが可能であったのであり(運営委員会規則、作業所規則各第四条一項)、島田組としても、被告らが右のような措置をとることもあり得ることを認識していたことが認められる(《証拠省略》)。

(3) 以上によれば、被告らは、本件共同企業体の業務及び組合財産の状況を検査して、監督する権限を有していたものと認められるのであり、これらの権限を通じて、間接的に本件工事の施工に関与していたと評価することができる。

(二) 本件共同企業体における構成員の出資について

本件共同企業体においては、島田組は、社員を派遣し労務を提供しているが、被告らは、労務や機械等の人的、物的な出資はしていない。

しかしながら、島田組は、北海道から本件共同企業体の代表者名義に宛て交付された約一億円の前渡金の全額を本件工事に関する支払に充て、その余は自ら資金を立て替えて支払って本件工事を施工し、本件工事完成後に、北海道から請負残代金を受け取り、被告らの決算の承認を得て、被告らに対する利益配当をして精算手続を完了している。

これによると、本件共同企業体における各構成員の出資の方法としては、前記一1(四)の①の方法(共同企業体の代表者名義の口座に前渡金をプールし各構成員からの出資に振り替え、これを支払に充てて、竣工金が入金して支払債務が確定した後に各構成員に精算金を支払う方法)が採られており、被告らは、この方法によって出資していたと評価することができる。

この点に関して、被告らは、前渡金については全く関わっていない旨主張しているが、島田組は、被告らの押印を得た上で本件共同企業体として三社名が連記された前渡金請求書を北海道に提出して右の前渡金を受領していること、被告らは、発注者から共同企業体の代表者名義の預金口座に前渡金が振り込まれ使用されることがあることは、建設業者として当然認識していたこと(《証拠省略》)、本件共同企業体の場合においても、経理取扱規則の第四条で、島田組が工事代金を発注者より受領した時は、代表者の口座により監理し毎月の支払に充当する旨定められていることからすれば、被告らは前渡金の右の扱いを認識し、容認していたと優に推認することができるのであって、被告らの右の主張は採用することができない。

(三) 被告らの事業の成功に対する利害関係について

本件共同企業体においては、本件付属協定で、構成員の出資の割合を、島田組が五〇パーセント、被告らが各二五パーセントとし(第二条)、工事の完成のときに決算をして(第三条一項)、決算の結果、利益又は欠損を生じた場合、構成員は、出資の割合によって、利益の配当を受け、又は欠損を負担することが定められており(第四条)、現実にも、被告らの受けた利益配当は、本件工事を完成させた後、決算によって純利益を算出し、そこから被告らの出資の割合に応じて計算されたものであり、その金額も右の定めのとおり、純利益の各二五パーセントにのぼるものである。

したがって、被告らになされた利益の分配は、見込み利益相当額として算出されたものではないし、単なる名義料的なものではなく、共同で事業を遂行したことによる正常な利益配当と評価できる性質のものである。

また、被告らは、少なくとも北海道との関係で、島田組と連帯して本件工事を完成させる義務を負い、また、本件工事に瑕疵があった場合には島田組と連帯して担保の責めに任ずることとなるのであるし、島田組代表者も、本件付属協定の第六条の定めにより、本件共同企業体の代表者が倒産した場合には、残った構成員が発注者との関係で工事を完成する義務を負い、その場合、下請業者に対する未払いの下請代金があればこれを支払って続行しなければならないことがあり得るとの認識を有しており(《証拠省略》)、被告小野建設代表者も、そのような危険の認識ができていたことが認められる(《証拠省略》)。

このように、本件共同企業体においても、その事業の成功について、代表者以外の構成員も直接の利害関係を有していたことが認められる。

なお、被告らは、被告らと島田組との間では利益の分配の割合だけを合意しており、損失の分配についての合意はされていなかったと主張し、本件証拠(《証拠省略》)中には、右に沿う供述や供述記載部分がある。しかし、これは、本件付属協定の書面による合意事項に明らかに反しているのであり、これらの証拠も、結局は右の合意を口頭では明確に確認しなかったに過ぎないのではないかとの疑問を否定することができないのであって、被告らの右の主張は認めることができない。

(四) その他、本件共同企業体が民法上の組合として実体のあるものとして運営されていた状況

本件共同企業体は、北海道との関係で、民法上の組合としての共同企業体の結成と認められる本件協定書、本件付属協定書を提出し、三社の右の合意に基づく共同企業体という組織体が結成されたものとして入札を行い、また、現実に、本件工事を受注している。

そして、本件工事現場においては、本件共同企業体が施工業者である旨表示されており、被告らの社旗も掲げられていたし、労災保険及び建設工事に関する損害保険も本件共同企業体名義で加入していた。また、本件工事に関して島田組が作成した注文書や島田組が徴した領収証も、全て本件共同企業体名で作成されていた。

このように、注文主や現場労働者、下請業者等を含む第三者に対する関係において、本件共同企業体は民法上の組合としての実体をもった組織体として行動していた。

5  以上判示したことを総合すると、島田組と被告らは、本件共同企業体の結成について、実質的にも、民法上の組合契約の締結をしていたことを肯認することができ、本件共同企業体は、民法上の組合としての実体を有するものとして結成され、運営されていたものと認られるのであって、本件共同企業体の結成の合意や本件協定等が通謀虚偽表示であり、本件共同企業体は単なるペーパー・ジョイントに過ぎない旨の被告らの主張は採用することができないことは明らかである。

三  争点2(島田組は、本件共同企業体を代表して本件下請契約を締結する権限を有していたか)について

1  民法上の組合においては、前判示のとおり、組合契約をもって、一人の組合員に業務の執行や代表権限を委任することができ、共同企業体においても、一般に、代表者の権限は、各種の法律行為のほか、折衝、受領等共同企業体に必要な業務執行の全てを対象とすることができるし、特定の事項についてだけ代表者に業務執行を委ねることもできるとされており(「共同企業体の解説」一一三頁参照)、どの範囲で代表権限を与えるかは、各共同企業体において定めるところによる。

そして、本件共同企業体は、民法上の組合としての共同企業体であると認められるのであり、前記第一の二2のとおり、本件協定を締結して、第六条において島田組を代表者となし、第七条においてその代表者としての権限を定めている。

2  そこで、本件協定の第七条の規定をみると、同条は、「代表者は、工事の施工に関し」、「運営委員会の決定に従い自己の名義をもって請負契約に基づく行為を行う権限」を有する旨を定めている。

右規定によれば、本件共同企業体の代表者である島田組は、運営委員会の決定に従って、自己の名義をもって、北海道との間の本件工事の請負契約に基づき、その履行請求として注文主である北海道に対して請負代金の請求やその受領等を行ったり、その履行行為として第三者に対する建築材料等の発注や下請工事の発注の法律行為等を行う代表権限を有することとされていると認めることができる。

3  そして、前記一2(三)(四)のとおり、本件共同企業体では、第一回の運営委員会において、本件工事における施工体制について基本的な合意がされて、島田組が社員を派遣し、施工を進めることとされ、また、第二回の運営委員会において、下請工事ごとに下請業者にいくらの請負金額で発注するかを記載した島田組作成の実行予算書が承認され、島田組は、被告らに対して、本件工事について発注した下請業者ごとの毎月の工事実績を記載した各月工事金収支明細予定書を交付していたことが認められるのである。

4  以上を総合すると、本件共同企業体の運営委員会は、代表者である島田組に対して、本件協定の第七条に基づき、本件工事について自己の名義をもって第三者との間で下請契約を締結するための代表権限を与える決定をしたものと推認することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、被告らは、本件協定は通謀虚偽表示により無効であり、本件協定の第七条の規定も合意されておらず無効であると主張するが、右の主張を認めることはできないことは、前判示のとおり明らかであって、被告らの主張は採用することができない。

四  争点3(本件下請契約の注文主は、本件共同企業体か、島田組か。島田組は、原告との間で、本件共同企業体の代表者として、本件共同企業体のための契約を締結したのか、単独の企業体の島田組として、島田組のための契約を締結したのか)について

1  本件共同企業体のためにする意思の表示(顕名)について

(一) 本件共同企業体は、民法上の組合としての共同企業体の実体を有するものとして結成され、現に運営されていたことは、前判示のとおりである。

そして、前記一1(一)のとおり、共同企業体においても、下請業者を使用することが多いと指摘され、共同企業体で使用する下請関係は、本件共同企業体が属する甲型共同企業体では、共同企業体が下請業者を使用し、構成員全員の責任で下請契約を締結するものであり、運営委員会において下請業者を選任して全構成員の責任の下に下請活用が図られるべきである、共同企業体の行う取引は、構成員個人としての取引ではなく、共同企業体としての取引である、と一般的に解されていることが認められる。

本件では、前判示のとおり、本件共同企業体の運営委員会において、下請工事ごとにいくらの請負金額で下請工事を発注するかを記載した実行予算書を承認した上で、代表者である島田組に対して、本件工事について、三社の連名によらずに、自己の名義をもって下請契約を締結するための代表権限を与える決定をしたことが認められるのであり、その後、島田組は、運営委員を構成する被告らに対して、本件工事について発注した下請業者の名前を明記し、それぞれの下請工事の工事実績を記載した各月工事金収支明細予定書を交付して報告していたことも認められる。

(二) そして、島田組が原告との間で本件下請契約を締結したことは争いがないところ、前判示のとおり、本件下請工事は本件工事についての下請契約であり、原告は、島田組を代表者とする本件共同企業体が本件工事を入札していることを知って島田組と交渉して、本件下請契約を受注するに至ったこと、島田組は、他の下請業者と同様に、原告に発注するに際しても、島田組が通常使用している注文書の注文者欄に、島田組の名義に冠して、本件共同企業体名のゴム印を押印して、本件共同企業体名義を記載しており、また、領収証も、原告が、右注文書の名義と同じく本件共同企業体宛で作成し、島田組がこれを徴収したことが認められる。

(三) 以上を総合すると、島田組が原告との間で締結した本件下請契約は、本件共同企業体のためになされたものであり、その注文主は、島田組ではなく、本件共同企業体であると認めるのが相当であり、島田組の原告に対する右の注文書上に、島田組名義に冠された本件共同企業体名義の記載は、取引業者との契約注文に関する事務手続及び書式については、島田組の方式により共同企業体代表者の名義をもって行うとの作業所規則の第七条二項に基づくものであり、本件共同企業体が締結する下請契約について代表権限を付与された島田組が、本件下請契約を、本件共同企業体のために締結する意思を有し、これを表示したものであると認められる。

2  右の点に関する被告らの主張について検討を加える。

(一) 被告らは、島田組作成の原告宛の注文書上の本件共同企業体名義の記載について、島田組において税務申告上の区別をするために記入されたと主張するが、原告が保管する注文書の記載がなぜ島田組における税務申告上の必要性に結びつくのか直ちに説明がつかないものであり、島田組の代表者自身も、当初は、これに沿うかの証言をしながら(《証拠省略》)、その後、発注者である北海道に対して真正な共同企業体であることを装い、その検査に備えるために過ぎない旨説明を変え(《証拠省略》)、しかも、その証言は、検査をする主体は漠然としていて特定はできないと述べたり、いままで発注官庁が検査に入るといったことはなかったと述べるなど、極めてあいまい、かつ不自然なものであって(《証拠省略》)、右の主張は到底採用し難いものである。

(二) 被告らは、原告作成の注文請書は島田組宛で作成されており、これは原告も島田組が注文者であると認識していたことを示すものであると主張している。

しかしながら、前記一3(二)のとおり、注文書と右注文請書は、注文書(控)とともに、三枚で一組の書式となっており、島田組は一枚目の注文書のみに本件共同企業体名義のゴム印を押印してこれらを原告に交付した結果として、本件共同企業体名義のゴム印の押印がされていない右注文請書がそのまま島田組に返されたために、あたかも島田組個人名義に宛てて発注された工事に関する注文請書であるかのような体裁となったに過ぎないものと推認することができ、現に原告が作成した領収書では注文書の名義と同じく、本件共同企業体宛になっていたのである。

(三) 被告らは、原告作成の請求書が島田組宛に作成されており、また、本件下請工事代金の支払手形について、島田組の単独名義で振り出されたものであり、原告が被告らに裏書を求めることはなかった点から、本件下請工事の注文者は島田組である旨主張している。

しかしながら、共同企業体の支払に関しては、代表者が自己名義で手形を振りして決済し、その際に他の構成員の裏書は求めないという方法も広く行われていることが認められる(《証拠省略》)。

また、前記のとおり、本件共同企業体の経理取扱規則の第五条では、取引業者への支払業務は株式会社島田組が行い、発行する約束手形は株式会社島田組名義をもって行うと定められており、島田組が自己名義の手形を原告に振り出したことは、右規則が本来定めていたことであるし、原告も、これに合わせて島田組に対する請求業務を行ったものと推認することができる。

(四) 以上のとおり、被告らが指摘する点は、いずれも本件下請工事の注文者が島田組であることを裏付けるものであると評価することができない。

3  商法五〇四条の適用について

(一) 本件では、右1に判示したとおり、島田組は、本件下請契約を締結するに当たり、本件共同企業体のためにすることを示したものと認められるのではあるが、この顕名がなされない場合であっても、次のとおり、本件共同企業体が注文主として契約の当事者となると解される。

(二) 本件共同企業体は、いずれも土木、建築の請負等を目的とする株式会社である被告ら及び島田組の三社が、北海道から建設工事の発注を受け、これを施工すること、すなわち、商法五〇二条二号の「他人ノ為ニスル加工ニ関スル行為」を引き受ける行為を営業として行うことを目的とし、右の三社をその構成員として結成したものであるから、商行為を営業とすることを目的とする民法上の組合であり、本件共同企業体の代表権限を有する島田組が、本件共同企業体がその営業として北海道から発注を受けた本件工事を施工するために下請契約を締結することは、本件共同企業体の営業のためにする附属的商行為にほかならないから、商法五〇四条が適用されると解される。

したがって、本件共同企業体の代表権限を有する島田組が原告との間で、本件工事の一部の本件下請工事につき、本件下請契約を締結するに際して、本人たる本件共同企業体のためにすることを示さない場合であっても、本件共同企業体に効力が生じ、本件共同企業体が本件下請契約の注文主となる。

この点について、被告らは、同条の適用要件として、代理人(代表者)の代理(代表)意思の存在について、本人に効果が生ずることを主張する側に立証責任が存すると解される旨主張するが、同条は、民法の顕名主義に対する例外として、商取引の簡易、迅速を期したものとして規定されたものであるから、そのように解することは相当ではなく、代理(代表)意思の不存在が、相手方の抗弁となると解すべきである。

(三) このように、建設工事を営業の目的とする共同企業体では、代表権限を有する会社が共同企業体の事業の執行に当たって第三者との間で締結する契約につき、商法五〇四条の規定が適用され、共同企業体のためにすることを表示しない場合でも、契約の当事者は共同企業体となる。そこで、他の構成員である会社が、このことによって、後記五のとおり、自らも連帯債務を負担することになることを回避することを希望するのであれば、共同企業体の結成における組合契約等において、右の代表権限を制限することを明確に合意し、かつ、外観法理の適用を排除するために、右の代表者が第三者との間で契約を締結する際に、その契約が単に代表者個人(単独の会社)のために締結されるものであり、共同企業体には効力が及ばないことを契約書等の書類上に明記させるとともに、そのことが代表者において遵守されるよう、代表者が第三者との間で締結した契約書等の写しを、他の構成員に随時交付させる等の措置を採ることが必要となる(このような例外的な合意がなされる場合ではなく、通常の共同企業体における下請業者の利用に関しても、前記一1(一)の平成一一年二月一〇日付け建設省経振発第二〇号「共同企業体の適正な運用について」が指摘するとおり、共同企業体の行う取引は、構成員個人としての取引ではなく、共同企業体としての取引であることを明確にするために、共同企業体の施工する工事についての下請契約は、共同企業体の名称を冠して共同企業体の代表者及びその他の構成員全員の連名により、又は少なくとも共同企業体の名称を冠した代表者の名義により締結することが、無用の疑義や紛争が生ずるのを防止するために望ましいことはいうまでもない。)。

(四) しかしながら、本件において、島田組及び被告らは、右のような格別の合意はしておらず(《証拠省略》)、したがって、右の措置も採られていないことは弁論の全趣旨に照らして明らかであり、また、島田組に本人のためにする意思が存在しなかったことの立証はなされておらず、むしろ、本件共同企業体の運営委員会は、代表者である島田組に対して、本件工事について自己の名義をもって第三者との間で下請契約を締結するための代表権限を与える決定をしており、また、島田組が本人のためにする意思を有し、これを表示して本件下請契約が締結されたことは、前記三及び右1に判示のとおりである。

4  以上のとおり、右1(民法上の顕名)、3(商法五〇四条の適用)のいずれにおいても、本件下請契約における注文主は、本件共同企業体であると認められる。

五  争点4(被告らの連帯債務の根拠)について

共同企業体は基本的には民法上の組合の性質を有しており、民法上の組合が負う債務については、各構成員は損失分配の割合に従って債務を負い、債権者が損失分配の割合を知らないときは、各構成員に対して均一の割合で権利を行使することができるとされているところ(民法六七五条)、共同企業体における構成員が会社である場合には、会社が共同企業体を結成してその構成員として共同企業体の事業を行う行為は、会社の営業のためにする行為(附属的商行為)にほかならず、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき構成員が負う債務は、構成員である会社にとって自らの商行為により負担した債務というべきものである。したがって、右の場合には、共同企業体の各構成員は、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき、商法五一一条一項により連帯債務を負うと解される(最高裁第三小法廷判決平成一〇年四月一四日民集五二巻三号八一三頁参照)。

これを本件についてみると、本件共同企業体を結成して事業を行う構成員は、いずれも株式会社であり、また、前判示のとおり、本件下請契約は、本件共同企業体がその事業のために締結したものであると認められる。

したがって、本件共同企業体を構成する被告らは、本件共同企業体が本件下請契約に基づき負担した請負残代金の支払債務につき、同項により連帯債務を負担することとなる。

第四結論

よって、原告の被告らに対する本訴請求は全部理由があるからこれを認容する。

(裁判長裁判官 橋本英史 裁判官 髙梨直純 髙木勝己)

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